こんにちは。ジェイグラブの横川です。
先週の金曜日に夢のある話をしましたが(参考:出稼ぎ以外で日本の倍稼ぐ方法)、ああいう記事を書くと妄想レベルの夢を描く人が出てくるので、すこし現実に引き戻そうと思います。
「ネットはすぐ売れる、短期間で成果が出る」と考えることを、海外では「Shiny-object Syndrome(シャイニー・オブジェクト・シンドローム)」といいます。訳しにくいですが、敢えて訳すと「キラキラ目標症候群」でしょうか。簡単に言えば「頭ん中お花畑症候群」ということです。つまり、嘲笑の対象だということです。
これから書くことは、先に申し上げておきますと、訪日観光客も増えてきましたし、今は円安ですから、物が売れないというわけではありません。物は売れます。ただし、売れるのがあなたのサイトだとは限らないというだけの話です。
私はセミナーの冒頭で必ず言っていることがあります。
「越境ECとインバウンドは親和性があります。観光庁や民間シンクタンクの調査でも、旅行を終えて帰国した人の60~70%は何らかの形で日本のものをリピート買いしているというデータがあります。つまり、インバウンドでピークを迎えたあとに越境ECのピークがついてくるということが想像できます。なので、観光客が押し寄せてくる頃までにはサイトがあった方がいい。行動制限期間とはそういう仕込みに最適である。」と。
なぜ、行動制限期間の最中にサイトを作ったり、ECモールを始めるのが良かったのかというと、越境ECはすぐに売れるとは限らないからです。と言うより、海外の人でも知っているブランド(認知度。商標という意味だけではありません)がなければ選ばないからです。
そもそも構築にかかる時期は出品すらしていないのですから当然売れません。この構築期間は、欧米の記事などを参考にすれば、「オープンまで2~3ヶ月」かかります。
しかし、これまで多くの日本の企業をサポートしてきて、3ヶ月でオープンできた企業は一握り、というか、ひとつまみです。
これはリスクを理解して、その上で前進する外国企業と違って、リスクがあるとわかると不安に苛まれるのか、はたまた何かあった時の責任を取りたくないからなのか、とにかく足は動けど前進しない「足踏み」が始まる、このブログで何度も書いている、もはや日本企業のお家芸とも言える「変態的臆病」が影響しています。
仮に3ヶ月でできたとしても、今度は認知度を上げる作業が中心になってきます。これなどはじっくり力を入れてやらねばならない作業ですが、1年くらいかかるのではないかと思います。仮にこれもうまくいって半年でできたとしても、構築と合わせて9ヶ月は売上を上げるサイトにはなりません。つまり、今から決意してもほぼ1年間は(よほどのアドバンテージがない限り)すぐに売れるサイトにはなりません。
もう日本市場が詰んでいくのだから海外についてはのるかそるかしかないのに、「費用対効果ガー」とか、「データガー」が始まったり、細かいことにこだわりすぎたり、些細な不安がわかると前に進まず足踏みを始めたり、目的と手段を混同し、いつしか手段の目的化が起きたり、ネットを片手間で考えているために、必要な情報を提供できなかったり、コンタクトが滞ったりする例が頻発するからです。
たとえ会社が老舗でも大手でも、新天地・新規事業に対してはベンチャー企業、スタートアップの感覚でやるべきです。
ちなみに、データとは「先行者たちの行為の結果」を示しているだけにすぎないことを忘れてはいけません。
「データ上、右肩上がりになることがわかったらやる」
「データを見ると厳しそうだからやらない」
一見、賢明な判断に見えますが、あくまでデータは「先行者たちの行った結果」にすぎないので、自分自身がデータのとおりになるという保証はどこにもありません。上向きになるデータを信じて始めても失敗するかもしれないし、厳しいデータを突きつけられても、逆にうまくいってしまう可能性もあります。
ちょっと余談ですが、データというと野村克也さんのID野球というのをよく連想しますが、野村さんのIDとは、ただデータに忠実に従うというものではなく、敵チームの選手の生い立ちや性格まで把握し、バッテリーやバッターの「心理」という、むしろ数値化しにくい要素を中心に考え、その底支えとしてデータを活用したというものです。データの言っていることが全てではないのです。データやフレームワークを信仰し、これらの言葉に酔っている人はここを見落としがちです。
繰り返しますが、データとは「先行者の行為の結果」ですので、裏を返せば、データがあるということは「自分は後発者である」ということを突きつけられています。出遅れています。それは場合によっては目指す市場がレッドオーシャンである可能性もあるということです。
ブルー・オーシャン戦略を取るならば、「まともなデータが出てこない」ほうがチャンスが絶大という可能性がありますし、むしろ悦に入るならこっちでしょう。
話を戻します。したがって、円安だとか、ビザなし来日の観光客が増えるというニュースを聞いてから思い立ったり、実際に外国人を目にする機会が増えてから思い立ってもすぐには成果が出ない、実は遅きに失している感があるので、行動制限期間の最中に仕込めと言い続けていたのです。パンデミックが始まった2020年初頭に、今の円安は想定できませんでしたが、コロナは2~3年でなんとかなるだろうと、当初から予測されていましたから、現在の状況は、いわば「読める未来」だったわけです。
もちろん、なんらかの戦略的意図や、投資の優先順位などから、この「読める未来」を敢えて読まなかったということもあったかもしれませんが、インバウンドの復活とは言っても、まだ、2019年レベルではありません。ですので、今がギリギリの、本当にギリギリのチャンスです。日本企業は決断が遅すぎることでも有名ですが、この機を逃すと、永久にライバルに追いつけなくなる可能性が高くなります。勇気を振り絞って前に進みましょう。