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H&Mがデジタル革新とD2C戦略で成功している理由

今年EUがVLOP(Very Large Online Platform:超大規模オンラインプラットフォーム)指定したほど、SHEINとTemuがヨーロッパで爆発的な人気を博している中、“地元企業”として頑張っているのが、スペインのZARAとスウェーデンのH&Mです。

今回はH&Mを取り上げます。

Statistaのデータによると、H&Mは2019年以降店舗数が減少しており、2023年には全世界で4,369店舗。前年より約100店舗減少しました。しかし、それにもかかわらず、2023年の全世界での総売上高は約2,360億スウェーデンクローナに達し、H&Mは世界の主要なアパレル小売業者のランキングで7位を獲得しました。

Sales of the H&M Group worldwide from financial year 2006 to 2023(in million SEK)/出典:Statista

店舗は減少しているのに、なぜ売上は上がっているのでしょうか。

H&MのEC革命:ファッションの巨人はいかにしてデジタル強者になったか

ファッション小売業界は急速に進化していますが、その中でH&Mは成功を収めている数少ないブランドのひとつと言えます。従来の店舗からグローバルなeコマースの巨人へと変貌を遂げ、D2C戦略とマーケットプレイスとのパートナーシップを巧みに活用して成長を遂げています。

D2Cにおけるストーリーテリングの力

H&MのD2C(=DtoC:Direct to Consumer)戦略は、ストーリーテリングに深く根ざしており、オンラインにおける成功の礎となっています。H&MのD2Cチャネルは顧客との関係を構築するための場所であり、感情的な繋がりとインスピレーションを与えるために、ストーリーテリングを活用しています。

このストーリーテリングは、独占的なコラボレーションやデザイナードロップという形をとることが多く、H&MのEC戦略の特徴的な要素となっています。例えば期間限定商品は、単に商品を販売するだけでなく、興奮と緊急性を生み出し、特別感という魅力で顧客を引きつけます。

有名デザイナーとコラボレートする時は、企画したきっかけやデザインのインスピレーション、それが両者にどのような利益をもたらすのか、といったコレクションの背景にあるストーリーを伝えています。

H&Mはより深いブランドロイヤルティを育み、単にファッションの提供や割引、プロモーションだけでなく、顧客がその一部になりたいと思うような有意義なコンテンツや体験を通じて、ブランド・エクイティを構築しています。

D2Cとマーケットプレイス戦略の差別化

H&Mは、D2Cの他に、シンガポール、香港、インドネシアなどアジア太平洋地域で展開しているオンラインファッションサイト「Zalora」をサードパーティーとして、デュアルチャネル戦略で顧客にアプローチしています。

Zaloraは、特にH&Mのブランドをよく知らなかったり、まだ購入したことがないような、より幅広い層にリーチするのに役立っています。自社サイトのD2Cプラットフォームが既存の顧客との関係を育てることに重点を置いているのに対し、サードパーティーのマーケットプレイスはH&Mを新しい買い物客に紹介する手段として機能しているというわけです。

この差別化がH&Mの成功の鍵でもあります。また、Zaloraでも自社D2Cサイトでもブランドの本質は一貫しているものの、プラットフォームによって、コレクションの見せ方は微妙にカスタマイズしているとのこと。統一されたブランド・アイデンティティや顧客体験の一貫性を維持しながら、異なるプラットフォームの強みを最大限に活用しているというわけです。

パーソナライゼーション戦略 顧客ロイヤルティの秘訣

H&Mは、今日のデジタル時代において、パーソナライゼーションはもはや贅沢なものではなく、期待されているものということをよく理解しており、D2Cプラットフォームでのパーソナライズされた体験に多額の投資を行っています。顧客データを活用して、ショッピング体験を向上させるおすすめ商品、サイズ提案、オーダーメイドのプロモーションを提供しています。

パーソナライズされたアプローチは、商品の推薦だけにとどまらず、H&Mはまた、顧客がブランドとの付き合いの長さやライフサイクルのどの段階にいるかに基づいて、異なるロイヤルティ特典を提供するなど、コミュニケーションを調整しています。顧客データを効果的に活用することで、ブランドは売上を伸ばすだけでなく、長期的なロイヤルティを育むことができるのです。

D2C能力の構築: 購入、構築、それとも提携?

H&Mは、特にテクノロジーやロジスティクスのような、外部の専門知識が顧客体験を向上させるような分野において、意味がある場合にはパートナーとのコラボレーションに前向きです。何が顧客にとって最高の体験になるかを常に最優先に考え、サードパーティ・プロバイダーとの提携がその実現に役立つのであれば、柔軟にアプローチする姿勢を取っています。

H&Mは自社のコアコンピタンスに集中する一方で、競争市場で優位に立つために他社の専門知識をも活用します。自社の強みがどこにあるのかを理解し、それが顧客体験に付加価値をもたらすのであれば、コラボレーションを恐れないことが重要です。

Source:H&M’s eCommerce Revolution: How the Fashion Giant Became a Digital Powerhouse(WPN)

おわりに

D2Cは、ここ数年特にアパレルブランドやコスメブランドが多く採用するようになったビジネスモデルです。仲介業者を通さず、顧客と直接コミュニケーションを取って販売できるため、顧客データの蓄積はもちろん、これらのデータや顧客の声を反映した商品開発などがおこなえるのがメリットです。

しかし、自社D2Cサイトの構築にコストがかかったり、あまり認知度が高くないブランドの場合は、認知度を上げるための高度な集客・マーケティング力が必要になってきます。またその場合、自社D2Cサイトだけでの販売では、売上が安定するまでに時間もかかるでしょう。

今回のH&Mのデュアルチャネル戦略、自社ブランドの強みや顧客体験には統一性や一貫性を維持しつつ、良いと思うものは柔軟に取り入れる姿勢などは、とても参考になるのではないかと思います。

Writer 山田彰彦

山田 彰彦 代表取締役 越境ECコンサルタント eBay JAPAN創業メンバー、ヤフー株式会社コマース事業などを経て越境EC専門 ジェイグラブ株式会社を創業。越境EC歴24年。イーベイ・ジャパン公認コンサルタント、ジェトロ新輸出大国コンソーシアムEC専門家、中小企業庁「新しい担い手」越境EC委員も務める。

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